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山田祥平のPCこだわりレポート
SERIES25 VALUESTAR T

  VALUESTAR T VALUESTAR Tは、パーソナルスタイルパソコンの最高峰として、映像を遊び、音を楽しむためのAVクリエイトPCとして位置づけられる製品だ。PCのユセージモデルが、テキストや静止画の処理から、音楽や、音声を伴う動画へと、推移しつつある中で、まさに、これでもかというほどに機能が詰め込まれている。その製品企画にあたった瀬戸孝之(NECカスタマックスマーケティング本部商品企画部主任)、開発の樫本欣久(NECカスタムテクニカPC事業部商品計画部主任)と奥野徳司(NECアクセステクニカソリューション開発本部主任)、そして、デザイナーの鳴澤道央(NECデザインデザイングループ2チーフデザイナー)に話を聞いてみた。


ユーザはもう雰囲気だけでは満足してくれない
瀬戸孝之(NECカスタマックスマーケティング本部商品企画部主任)瀬戸 「VALUESTAR Tシリーズは、映像関係を遊ぶためのクリエイティブなPCを目指した製品です。従来のTシリーズを、本体強化、モニター強化の両面から再検討し、デザインも含めて練り直して、今回のものが完成しました。
 本体に関しては、下位機種と差が見えにくかったという反省点があります。できることという意味でも同じでしたから。そこで、プロセッサ、メモリ、グラフィックスなど、すべて下位機種を引き離す商品を目指しました。差別化要素をきちんとアピールできるようにしたかったんです。
 AVパソコンの構想は2年近く前からありました。最近のパソコンの買われ方は、6割から7割が買い換え買い増しなので、こうした音や映像を楽しむためのもっとも上位の製品を世に問うのは、時期的にもいいんじゃないかと思います。
 実は、店頭の声を聞くと中上級者が求めるパソコンが変わってきているんです。具体的に、グラフィックスや全体の性能などがきちんと検討されているようなのです。他社製品や、自社の下位機種と比べたときに、メモリの速度が速いとか、グラフィックスボードがいいとかという、きわめて具体的な部分を見る傾向が顕著なんですね。だから、もう、雰囲気だけじゃダメなんだと思います。とすれば、これまでと同じような製品作りではいけない。状況も整ったし、環境も整ったのだから、そのチャンスを逃さないようにしなければなりません」


 このシリーズでも、以前に登場した樫本がフォローする。樫本は、SimplemやVALUESTAR FSなど、一体型PCの企画で異端児を自認しながら、画期的な企画を形にしてきた実績を持つ。

樫本欣久(NECカスタムテクニカPC事業部商品計画部主任)樫本 「瀬戸から企画の相談を受けたときに、どういった方向性のパソコンがいいかを自分でもじっくりと考えてみました。同時に、われわれ開発サイドでは、お客様に如何に満足いただける装置に仕上げるか!という視点と、限られたリソースの中で如何に効率的な"物作り"をするか!という2つの視点で開発を進めました。実は今回、Tシリーズのマザーボードは、高性能ホームPCサーバ機のTXシリーズと基本部分で共通になっています。これは、以前からチャレンジしてみたかった"日本市場に合せた共通プラットフォーム"のアイデアを具体化したものです。ご承知の様に、LPX、NLX、FlexATXといった標準的な共通プラットフォームは有りますが、正直、日本市場の要求に合致していたとは思っていませんでした。ですので、高性能でもコンパクトなNEC独自のプラットフォームを開発し、タワー型PCにも負けない性能をスリムタワーの限られた空間の中で実現することにより、日本市場での中上級者の方でも満足して頂ける高性能な装置に出来上がったと思っています」


高性能パソコンはかくあるべしのデザイナーの仕事
 基本部分を共用したプラットフォームでも、その製品に与えられたコンセプトによって、ユーザの印象は大きく変わる。その印象を、さらに増幅させ、パソコンを所有する喜びにつなげるのがデザイナーの仕事だ。コンセプトを明確に伝えるために、鳴澤は何を考え、それをどう形にしたのだろう。

鳴澤道央(NECデザインデザイングループ2チーフデザイナー)鳴澤 「Tシリーズは、高性能であると同時にAV連携を思う存分に楽しんでいただくPCなので、ある程度の大きさは必要でした。それを前提に、AVを予感させる全体のたたずまいなどを考え、ハイクオリティ、ハイスペックを表現するものを創っていきます。
 今回は、パーソナルというカテゴリの中の上位機種ということだったので、比較的やりやすかったですね。的をしぼることができましたから。ひとつのコンセプトに的を絞り、明確なターゲットユーザに訴求すればいいのですから、仕事としては、やりやすかったんじゃないかと思っています。だから、最終形も、最初に作ったモックアップとそれほど大きく変わってはいません。
モックアップ 3Dのデザインツールを使って、立体としての雰囲気をつかむ作業から始め、最初のスケッチで3案を出し、スタッフ会議の結果、その中から2案をモックアップにしてみました。ハイクオリティ、ハイスペックそしてパーソナルというカテゴリにフォーカスした場合、大きな全体のイメージとしてシャープなデザインの方向があり、その表現方法が異なるモック2案のうちから、無駄のないミニマムな方向のデザインが今回のプロダクトに合致したのです。
 最初、手書きのラフを描くときに、シャープというだけではなくて、形状に意味合いがあるようなものにしたいと思いました。基本的な考え方のきっかけは、何枚かの板を束ねるという発想です。つまり、増幅していけるイメージです。
 さらに、前面の入出力端子周りのところをどう差別化するかも重要な要素でした。それを特徴として出してあげるにはどうしたらいいかを考えました。オーディオ機器のように高級感が必要だと思ったんです。
 小さなコンテを描いていたときから置き台は欠かせないものとしてありました。置き台従来製品に添付されていたものは、本体が倒れないようにするための保証のためにあったような後付パーツでしたから、最初からデザインに取り込みたかったんですよ。横幅もありますから、きちんと考慮しないと見かけも損なわれます。そこで、本体が浮遊しているようなイメージを与えることで、違和感のないものに仕上げることができました。
 想定しているユーザは男性。うん、男のパソコンですね。パーソナルの上級機を買うということで、男性を強く意識しました。シンボリックターゲットは三十代の前半から後半といったところで、ホビーとしてAVをいろいろやっている人たちですね。だから、リビングではなく、個人の想いが入っている空間の中で使われるパソコンを想定しています。だから、ディスプレイも、今までより、多少精悍なイメージを狙ってみました」


モニタディスプレイはテレビもなければならない
 一見、テレビと見分けがつかないデバイス、すなわち、液晶ディスプレイがそこにあるのに、パソコンを起動しなければテレビを見ることができないのは不自然だ。それではAVパソコンとして失格だと樫本は考えた。液晶モニタを、PCの周辺機器としてとらえるのではなく、音声や映像の出口として中心に据えることを企んだのだ。

樫本 「まず、ディスプレイはSoundVuによる音声出力はもちろん、USB2.0のハブ機能も備えており、モニタとしての基本機能は押さえています。
 その上で、液晶ディスプレイ側にもテレビの機能を持たせたんです。発想としては簡単です。だって、パソコンを使っていないとテレビが見れないなんて、おかしいじゃないですか。でも、モニタ側にテレビチューナを内蔵すれば簡単にみれる。これは、使う側から見てもわかりやすいし使いやすいですね。なにしろ、電源を入れればアッという間にテレビが見れるんですから。
PIP機能 テレビチューナ内蔵モニタは今までのTXでも採用していましたが、今回は、それが大幅に使いやすくなっています。これで、本体のテレビ機能を含めて2つのテレビ放送を同時に見ることができるようになりました。それも、同じ画面でふたつの放送を同時に見ることができるんです。これがピクチャー・イン・ピクチャー(PIP)の機能です。発想としては、前からあったんですが、ようやく形にすることができました。
 うしろめたいことがあるとすれば、2チャンネル同時録画が現時点では"まだ"できないことですね。これは、コストというよりも、PCIのバス幅等の技術的な問題です。ハードディスクに録画するときに必要な帯域を考えると厳しいものがあります」


画質と機能を両立したい
 言うのは簡単だが、実際に形にするのはたいへんだ。ワイド液晶の左側に4:3のデスクトップを寄せてしまい、余った右側のスペースにモニタ側の映像を表示するPOP。また、大きな画面でテレビ放送を表示してナイターでも見ながら、子画面にSmartVisionのテレビ放送を表示するPIP。主と従は一瞬で切り替わる。このアイディアを実装するにあたって、ディスプレイ部分の開発設計を担当した奥野は悩みに悩んだ。いや、奥野の悩みは、カスタムテクニカから企画を持ちかけられるずっと以前から始まっていたのだ。

POP機能

奥野 「モニタにチューナを入れるのは、とてもいいソリューションです。最初にテレビ機能付きモニタを出したのは今から1年前ですが、それを出したあとに、次はどうしようかとずっと考えながら、まずは、アクセステクニカ内部で作業を続けていたんです。
 画質を大幅に向上させることを前提に、その付加機能も考え始めていました。もちろん、コストをかければなんでもできますが、それはかないません。
SoundVu搭載モニタ だから、実際に、カスタムテクニカから、画質の更なる向上も必要だが、PIP/POPなどのテレビとPCを楽しむ機能も優先して実装して欲しいといわれたときには葛藤がありました。アクセステクニカとしては、画質の更なる向上をおこなった後、PIP/POPなどの機能追加をしようと考えていたので、それらが同時に求められているのはわかっていても、段階を踏んでからにしたいという想いが強かったからです。が、結局その両方の実現に取り組みました。
 いろんな案を考えましたね。4〜5案を考えていました。そして、LSIメーカとそのLSIの違いでできることできないことの切り出しと製品時の画質を検討して4案が残り、さらに、最終的に2つが残りました。
 高画質であることと、PIP/POPを両立させるためには、とにかくプログレッシブの映像を作る必要があります。当然、メモリ等も必要で、コストがかかります。それを実現するLSIメーカにも、各社必ず特徴があるので、それぞれが普通にモニタを見ている人からどう見えるかを調べるといった作業の中で、案をしぼっていきました。
 日頃から隠し球をいっぱい持っていないといけないという姿勢が役立ちました。今回は、アクセステクニカの中で、いろんな情報をストックしてあったのが功を奏しました。開発しながらの蓄えです。そして、今回は、たまたま、カスタマックスやカスタムテクニカから持ち込まれた企画と、アクセステクニカの考えが一致したんです。だから、スタートはスムーズにいったんじゃないかと思います。ただ、一点、画質の向上とPIP/POP機能の両立とうことをのぞいてはね」

 これに対して樫本が応える。

樫本欣久(NECカスタムテクニカPC事業部商品計画部主任)樫本 「本来は最高画質を求めていくのが当たり前です。また、開発する上では、目標を絞るべきというのも理解できるんです。だから、アクセステクニカ側の気持ちもわかるんです。でも、今回はどうしても「二兎を得る」ことを譲れませんでした。以前、見送った機能を追加したかったんです。結局、機能は絶対にを削るわけにはいかない、でも画質も犠牲にしないで欲しい・・・とかなり無茶に近いお願いをした事になります。でも、今だから言いますが、内心ではすごく期待をしていました。きっと、機能も画質も、最高にしてくれるにちがいないって信じてましたから。アクセステクニカに対しては、絶対になんとかやってくれるだろうという絶大な信頼感があるんです」

奥野 「自分たちだけで作るわけではないし、器としてのデザインもあります。構造を設計する人と、中に入れるボードを設計する人とのコラボレーションですからね。それに、機能を実現するためのLSIの選定に苦労しました」

樫本 「いろいろな事情が、結果的に奥野さんを苦しめたかもしれません」


画質改善の秘密がここにある
 今回のPIP/POPを実現するためには、ハードウェア的に3種類の機能をモニタ側に実装する必要がある。ひとつは、ビデオデコーダ。これは、モニタ内蔵のテレビチューナから受け取ったアナログ信号をデジタルに変換するためのものだ。
 さらに、プログレッシブ変換。これは、インターレスのテレビ映像をノンインターレスのプログレッシブ映像に変換する。
 そして、最後にスケーラ。これは、映像をパネルの大きさに拡大するためのものだ。従来は、1つの映像を特定のパネルの解像度に拡大するだけだったが、今回は、PIP/POP機能により複数の映像をサポートする必要があるため、機能としてはもっとも負荷が高い。

奥野徳司(NECアクセステクニカソリューション開発本部主任)奥野 「各機能を実現するLSIに、性能的に悪いものを使っては、すべてが台無しになります、だから、LSIの選定に苦労したんですよ。今回は、この3つの機能を2つのLSIに委ねました。ビデオデコーダとスケーラで、スケーラLSIにプログレッシブ変換もまかせる方法をとりました。
 3D Y/C分離とゴーストリデューサの機能は、どうしてもつけてほしいといわれていました。もともと、SmartVisionには備わっている機能ですから、モニタ側のテレビにもこの機能がないと言うわけにはいきませんよね。
 従来のモデルより画質的に向上させている点は、動画をより美しく見せている点です。
 動画をより美しく見せるために、動画とパネルに着目しました。動画の映像というのはそのほとんどが中間調領域の色で占められているんですが、それをプログレッシブ変換してスケーリングすると、補間作業が発生し補間作業の結果、更に中間調領域の色がふえます。一方、パネルの応答速度が遅いと残像が見えやすくなります。残像が見えだすとそれは映像のボケにつながります。映像のボケ感などの視認性の妨害が発生すると、人の目は距離が一定でもピントを合わせようとします。そのため、疲労感や、不快感を感じるようになります。
 この2点の特徴、特性に着目し、中間調領域の色に対してパネルの応答速度を早くすることで、動画がより美しくなり画質の向上を果たしました。
 また、パネルとテレビでは、色再現範囲も違います。これをどうしようかと課題もありました。そこで、色空間を制御することにより見た目に印象的な再現性を持たせ、TVに近い印象にしました」



モニタはPCの顔だ
鳴澤 「今後、PCを構成する要素のひとつとして、モニタディスプレイはとても重要なものになっていくでしょう。PCに添付されているものとはいえ、モニタを見てPCを決めることもあるくらいです。購入を決める大きな要素だと思います。だからこそ、今までと違う顔を与えるSoundVuはとても有効です」

モニタ裏・D4端子瀬戸 「そう、モニタにD4端子がついたのもNECとして初めてです。また、Sビデオやコンポジットビデオ端子もついてますので、BSデジタルチューナやビデオデッキなどの他の機器をモニタにつなぐこともできます。USB2.0ハブ機能の搭載も必須課題でした」

樫本 「あとは、DVDマルチドライブが増えてきたなかで、次にくるものを考えれば、当然DVDマルチプラスでしょう。DVD-RAM、DVD-R、DVD-RW、DVD+R、DVD+RWという、すべてのDVDフォーマットに対応したドライブです。ご存じのように、-VR、+VR共それぞれに得意/不得意があります。だから、現段階で最高のドライブということで採用することにしました。NECの目指すべき方向としては、陣営にこだわる事なく、周囲のAV環境にあわせて自由に利用できるようにしたいと考えています。
 また、実は今回のTやTXで採用しているPC内蔵のTVチューナも、目立ちませんが、きちんと手直しが入っています。チューナユニットの見直しで耐ノイズ特性を上げ画質を向上させたり、ソフト面でも細かい強化が入っています」


VALUESTAR T 彼らは、これ以上は付加する機能を思いつかないような、そんなAVパソコンがあればいいと考えた。地上波のみならず、BSデジタルやCSデジタル放送の受信機能も備え、AVパソコンの最高峰として君臨するような存在だ。
 そして、その製品がこの世に問われる。そこには、メーカ製のパソコンでなければ実現できない機能が数多く搭載されている。望み通りの高性能パソコンを得るためには自作しかないという潮流が長く続く中で、ある種の回帰現象が今起ころうとしている。望む機能が実現されているのなら、メーカ製がいいと考えるユーザ層。NECは、しっかりと彼らをキャッチアップしようとしている。


■インタビュアー・プロフィール :山田 祥平
1957年福井県生まれ。フリーランスライター、成城大学講師。
「やってみよう(日本経済新聞)」、「デジタルワンダーランド(夕刊フジ)」、「プライオリティタグ(ソフトバンク・DOS/Vマガジン)」、「ウィンドウズ調査団(週刊アスキー)」など、パソコン関連の連載記事を各紙誌に精力的に寄稿。「できるシリーズ(インプレス刊)」など単行本も多数。NEC製品とは、初代PC-9800シリーズからの長いつきあい。

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