121ware 閉じる

山田祥平のPCこだわりレポート
SERIES26 贅沢に各部を練り込んでいった最高峰ノート LaVie C

  LaVie C アドバンストタイプ クリエイターのための快適ノートパソコンを自負するLaVie Cにアドバンストタイプが登場した。ノート用の最新プロセッサとして、モバイルPentium4 3.06GHz等を搭載、ボディの質感や高品位な液晶などに徹底的にこだわったハイエンドモデルだ。今回は、その開発にかかわり、全体をとりまとめた榎本浩二(NECカスタマックスマーケティング本部商品企画部主任)、大和田和哉(NECカスタムテクニカPC事業部商品開発部主任)、デザイン担当の前村浩三(NECデザイン デザイングループ2 シニアエキスパートデザイナー)、キーボード担当の舟山高弘(NECカスタムテクニカPC事業部ソリューション技術部)、構造設計の斎藤芳行(NECカスタムテクニカPC事業部商品開発部)、熱設計担当の大久博充(NECカスタムテクニカPC事業部商品開発部)らに話を聞いてみた。


最高峰のノートを目指せ
榎本浩二(NECカスタマックスマーケティング本部商品企画部主任)榎本 「今回の商品って、スポーツカーのコブラのイメージなんですよ。かっこよくて性能も高いっていう」

大和田 「コブラって、昔からのクルマですが、ずっとデザインが同じなんです。だから、長く使えるというイメージがある」

榎本 「そう、洗練されていながら、スタンダードであるという高性能マシンですね。かつ、クリエイティブの頭文字であるCを象徴しています。
 高性能なマシンであることを徹底的に追求しました。ノートというフォームファクタでできる限界までやってみようとした製品です。他社のノートパソコンを見ると、デスクトップ用の部材を使っているモデルはたくさんありますよ。でも、熱がすごくでるような弊害があります。NECとしても、デスクトップ用のパーツをうまく使って、同じような製品作りをやればできたというところはありますが、やはり、やりたくなかったんです。
 今回は、インテルのモバイル向けの新しいプロセッサとして、モバイルPentium4 3.06GHzや2.66GHzを搭載し、チップセットも最新の「852PM」を使っています。フロントサイドバス(FSB)も533MHz、メモリもPC2700対応になって、業界最速レベルを達成することができました」

LaVie C アドバンストタイプ
 モバイルPentium4 3.06GHz、FSB533MHzを実現し、PC2700の高速DDRメモリに対応したIntel 852PMチップセット、さらに、高速ビデオカードとしてATI MOBILITY RADEON 9000を奢り、VRAMにも64MB(128bit DDR)を実装する。しかもハードディスクは80GBと、スペックだけを見れば、ノートパソコンとは思えない。見かけはノートパソコンでも、中身がデスクトップパソコンでは意味がない。彼らはそう考えた。見かけがノートパソコンなら、ノートパソコンとして満たさなければならない要件があるというのだ。

榎本 「当然ですが、まっとうにノートとして使えるんです。モバイルプロセッサですから、SpeedStepにもきちんと対応しています。プロセッサを駆動する電圧をダイナミックに制御して省電力を実現する機能です。その点は、低負荷のときもパワーを落とさないデスクトップ用のプロセッサとは違います。特に最大負荷が大きいCPUでは効果が高いんです。
 いずれにしても、新しいモバイルプロセッサのメリットをきちんと評価した結果、使わない手はないと判断しました。ノートとして高性能をめざすなら、進化のカタチとしては、それを使うのが正しい。つまり、従来のノートパソコンよりも高性能で、かつ、進化した高級感、使うときの快適さ、使い心地の満足感を作りたいと思ったんです」

大和田和哉(NECカスタムテクニカPC事業部商品開発部主任)大和田 「ノートとして出し、かつ、デスクトップに匹敵させるコンセプトですね。でも、コストの点では葛藤がありました。値段がずいぶん高くなりますからね。プロセッサ、チップセットともに高いんです。ただ、ポータビリティのカテゴリでは、チップセットもほかを選べない状態です。性能としてはデスクトップと同等ですが、ノートとして出す限りは、きちんとノートとしてのメリットを引き出さなくてはなりません」

榎本 「うるさいとか、熱いとか、高性能パソコンには、いろいろな弊害が出てきています。高い商品を買ってくださるお客さまは、そのことをよくご存じなんです。そして、カタログでは見えないところを見てくださいます。だから、こだわる価値はあるはずなんですよ」


クリスタライズをキーワードにデザインにこだわる
大和田 「高価な製品ですから、デザインも洗練したものにしなければなりません。開発段階のコミュニケーションの中で、デザインを犠牲にせずに、これらのパーツをボディに詰め込んでいくには、どうすればいいのかを考えていきました。熱優先、ユーザビリティ優先、デザイン優先と、方法論はたくさんあります。このうち、どれをとればいいのかを議論していったわけですね」

 デザインは、歴代LaVie Cを担当してきた前村だ。自分を皮フェチと称し、プライベートでは、靴のコレクターとして、以前にも、このレポートに登場しているこだわり派だ。現在のパソコンのデザインは、ある意味で、熱設計との戦いだ。すなわち、この戦いは、前村と大久との戦いでもあった。

前村浩三(NECデザイン デザイングループ2 シニアエキスパートデザイナー)前村 「先代のLaVie Cは、『コア』をイメージしていたものでした。今回は『クリスタライズ』がキーワードです。結晶化ですね。素直にそうなりました。
 ノートパソコンとして必要なのは、液晶とキーボードとパームレストです。実際、それだけがあればいいので、それらを中心にして、無駄な部分をどんどん取り去っていって、純度を高めていきました。今回は、インフォオーディオをはずすことになりました。カメラをつけたらどうかとか、ボイスレコーダをつけたらどうかとか、いろいろ考えていたようですが、構造的な制約もあるということで、無しになったんです。でも、正直なところ、無くなって、本当によかったです(笑)。デザイン的にも大きな制約になっていましたから」

アマレッタ
 ディスプレイを起こすと、硬質で透明感のあるハーフミラーがキーボードの向こう側に配されている。視線を手前に向かわせたところにパームレスト。今までのノートパソコンにではなかった素材が使われている。クラレの高級新素材「アマレッタ」だ。

前村 「ファーストインプレッションとしてインパクトがある。さらに、使っていくと触感がいい。そういう素材を探しました。これは塗装では出せません。さわってみるとわかりますが、微妙な凹凸があるでしょう。だから、ベタッとしないんです。長時間使っていると手のひらが汗ばんできますが、それでも、不快感がありません。ハーフミラーパーツ金型の中にクラレのアマレッタを貼り付けて、その中にモールドを注入して、一体化成形しているので、絶対にはがれることがないんですよ。
 ハーフミラーもポイントです。光っているLED以外は見えません。とにかくよけいなものの存在感をなくすことを考えました。ハーフミラーは、デスクトップパソコンのボディには、けっこう使われてきましたが、ノートでは珍しいんじゃないでしょうか。デスクトップに匹敵するノートパソコンのために使ってみるのもおもしろいと思いました」


熱対策大久 「熱に関しては、従来のノートパソコンの2倍の熱を対策しなければなりません。ヒートシンクをより広く、より大きく確保する必要があるんですが、それを最小限のものにするために、NECのノートパソコンで初めてグリースを使うことにしました。
 グリースは、保守性で劣るので、従来のノートパソコンでは、フェーズチェンジシートの上にアルミシートがのっている二層構造のフェーズチェンジを使っていました。でも、今回、プロセッサ上のヒートスプレッダーの温度を70度までしかあげてはいけないんですが、今までのフェーズチェンジでは、60度以上にならないとフェーズチェンジシートがとけ出しません。比較的低い温度でも、きちんと密着性を確保するためには、どうしても、グリースを採用する必要があったんです。
 設計初期段階で、インテルから提供されたデータでは、熱設計発熱量はだいたい84ワット程度でした。当然、それをめざして熱設計を始めました。そのあと、うれしいことに、スペックとしての熱設計電力がさがってきたんです。
大久博充(NECカスタムテクニカPC事業部商品開発部) ヒートシンク、ファンのサイズ、もっと大きくしろと叫び続けていましたから、これは、うれしい仕様変更でしたね。でも、構造設計側からは、要件を満たすだけのヒートシンクやファンはどうしても入らないといわれてしまいました。だから、熱を効率よく逃がすことができる他の方法を考えなければなりません。そこで、フィンのピッチやファンといった基本部分を徹底的に見直し、効率の向上を図りました」

 ボディを裏返すと、本体裏面に吸気用のスリットがあいている。また、本体の右側にも空気孔がある。このふたつの孔から取り込んだ空気を、ファンによって基板の下から回しこみ、ヒートシンクを冷却して、背面に排出する。こうした工夫で熱を対策することができたという。

前村 「バッテリと、ヒートシンク、フロッピーディスクドライブで、もう、ボディの中にはもう何も場所がない状態です。しかも、今回は、インターフェイスが多いでしょう。PS/2、シリアル、パラレルと、レガシーインターフェイスも全部あります。最初はCADであれこれ悩んでいましたが、最後には、経験値でやっつけるしかなかったですね。とにかくモノを見たときに、どうにもならないと思いましたよ。その中で全力をかけるしかないんです」

榎本 「レイアウトに関しては、使い勝手も考えて配置しなければならないので、けっこう悩みましたね。最初の段階ではUSB端子は全部背面だったんですが、一部を右側にも配置しました」

大和田 「レガシーインターフェイスの装備は、賛否両論あると思いますが、これだけ高級なマシンですから、買い換えのお客さまも多いはずなんです。だから、従来の周辺機器などをサポートするためにも必要だと判断しました。それに、CADソフトなどでは、正規ユーザ認証用にドングルなどを使うんですが、それがシリアルだったり、パラレルだったりすることもまだ少なくないんです。ハイエンドの位置づけとしては、そういう状況に対する配慮も必要でした」



キータッチへのこだわりが新構造、素材の採用を決めた
 ハイエンドマシンのユーザの満足感を得るためには、キーボードにもこだわらなければならない。見かけがどんなによくても、使い勝手が悪ければ意味がないからだ。そこで、今回は、キーボードの表面に、シルクプロテイン塗装を施した。汗によるべたつきが少なく、手触りもソフトだ。また、高速なタイプにも追随できるように、一枚メンブレンスイッチ方式を採用、打鍵ミスを防ぐという。

一枚メンブレンスイッチ方式

 キータッチは、パソコンにおいて、きわめて重要な要素だ。
 通常、キーボードは、特定のキーのキートップを押し下げていくと、ある時点でスイッチがオンになって、それがパソコンに伝わる。従来使われていた三層スイッチシートでは、指がクリックを感じても、実際には、さらにキートップを押し下げていかないとオンにはならなかった。そのズレが入力抜けにつながっていたのだ。今回採用された一枚メンブレンスイッチ方式は、余分なメンブレンが省略され、指がクリックを感じた時点で、正しくオンになる。


榎本 「企画する立場としては、ターゲットとする中上級層には、使い勝手に厳しいユーザが多いので、そういう人に満足してもらえるようなものを提供していかなければなりません。もちろん、今までにもやってきたことですが、まだ、できるところはあるはずです。
 先代と比べてみるとわかりますが、キーボード全体の幅が広がっているでしょう。これで、エンターキー等を大きくし、ファンクションキーF4とF5、F8とF9の間、また、F1の左側、F12の右側に隙間を開けることで、ファンクションキーの位置がよりわかり易くなりました」

舟山高弘(NECカスタムテクニカPC事業部ソリューション技術部)舟山 「ユーザが触れるキートップ表面の素材を、前は抗菌だったんですが、この発想をアップグレードしたかったんです。前回のラバーコーティングでは、最初の触感はよくても、汗をかいてくると、コーティングが無い場合と同じ様に、だんだんベタベタしてくるんです。そこで、シルクプロテインという素材を見つけました。吸湿性がいいんです。PCでは使われることはありませんでしたが、クルマのシート素材などにも使われていて、シルクプロテイン加工のキートップ肌触りがいいことは実証済みです。サラサラという感じですね。女性のストッキングなんかにも使われているものがあるそうです。
 強度もあります。キートップに文字が印刷された状態で、クリアなシルクプロテインをコーティングしています。だから、文字はがれにも強いんです。通常のキートップは、実際に人に打鍵してもらって、比べていくと、20万回くらいでテカリが見えてくるんですが、このコーティングだと、そのテカリは見えてきません。
 さらに、今回はタッチも変わっています。キーを押してオンになってからのストロークが長めにとってあるんです。それを可能にしたのが、ラバー特性の変更と一枚メンブレイン構造です。かなり以前から、この構造はあったんですが、ラバーの方に接点をコーティングするのが難しくて耐久性が低かったために、なかなか主流にはなりませんでした。その技術が向上して実用レベルになり、今回の採用となりました。機能的には1000万回使ってもこわれないようにしなければならないんですが、大丈夫です。市場からもキー入力抜け防止のリクエストはありました。今回は、新LaVie Cに限らず、いろいろな製品のキーボードを改良しようと、開発の現場でキーボード土台各種のメカニズムを試してみましたが、これがいいという意見が多かったですね。
 キー入力抜けという点では、やってみないとわからないんです。かといって、各筐体用に個別にキーボードモジュールを用意するわけにもいきません。そこで、水平なところにボードを置いて試してみるんですが、キーボードの受けの部分がフカフカだと、フィーリングが悪くなることもわかっています。今回は、キーボードのベースとなるプレートの端面を折り曲げることで、剛性感をあげる工夫もしています」

斎藤芳行(NECカスタムテクニカPC事業部商品開発部)斉藤 「新LaVie Cに限らず、キーボードを支える土台の補強はノートパソコンにとって大事なことです。だからといって、装置サイズや従量を考えると簡単に板金を入れるわけにもいきません。剛性と重量のバランスを考えて、各部品の寸法制度を上げることでキーボードの使い心地が向上するよう工夫しています。しかも、熱設計の技術向上により、熱が上に伝わらなくなったことで、キートップが熱を持つこともなくなりました」

見やすい文字舟山 「今回は、見やすい文字も考えていますよ。文字を大きくすると視認性はよくなるんですが、視覚的には邪魔になります。そこで、フォントをイタリックにしてみました。これで、アルファベットとかなが多少はなれるんです。だから、文字を大きくしたんですが、うるさく感じることはなくなっています」


贅沢な練り込みがパワーユーザの心を動かす
 新LaVie Cを開いたときに、ひときわ目立つのは、光沢感のあるエクセレントシャインビュー液晶だ。ツルツルした質感は高級感をかもしだす。光の拡散を最小限に抑えるために、コントラストも高く、色も正確に表示できる。その反面、反射率も高く、天井の蛍光灯や背後の窓からの映り込みなどもかかえこむことになるため、批判的な意見も耳にする。その点を榎本に聞くと、同等の液晶パネルを持った他社製ノートパソコンを出してきた。

液晶比較榎本 「この2台のパソコンを比べてみてください。液晶の明るさとしては、同じカンデラ数なので、見た目の表示色がほぼ同じです。ただし、それは、正面から見たときだけなんですね。もし、あるポジションで、天井の蛍光灯が映り込んだとしますよね。当然、パネルの角度を調節して、その映り込みがないようにするんですが、ほら、こうして傾けていくと、こっちの液晶は、ユーザの目には、どんどん表示色が変化してくるでしょう。でも、LaVie Cは、IPS液晶ですから、視野角がとても広いので、そういうことがありません。水平に近いポジションでも、ほとんど色が変わらないでしょう」

 ノートパソコンの最高峰としてLaVie Cは生まれ変わった。ノートパソコンでありながら、デスクトップパソコンに匹敵する処理性能を持ち、それでいて、ノートパソコンの軽快さを失っていない。USBインターフェイス以外のコネクタ類はカバーで覆われ、高級感が損なわれないようにデザイン的な工夫も為されている。
 ノートパソコンとしての、トータルな使い勝手に徹底的にこだわり、贅沢に各部を練り込んでいった製品だ。何台ものノートパソコンを使い続けてきたパワーユーザなら、きっとそのこだわりを感じることができるにちがいない。寝ても覚めてもパソコンのことを考え続けてきた男たちの仕事である。


■インタビュアー・プロフィール :山田 祥平
1957年福井県生まれ。フリーランスライター、成城大学講師。
「やってみよう(日本経済新聞)」、「デジタルワンダーランド(夕刊フジ)」、「プライオリティタグ(ソフトバンク・DOS/Vマガジン)」、「ウィンドウズ調査団(週刊アスキー)」など、パソコン関連の連載記事を各紙誌に精力的に寄稿。「できるシリーズ(インプレス刊)」など単行本も多数。NEC製品とは、初代PC-9800シリーズからの長いつきあい。

NEC Copyright(C) NEC Corporation, NEC Personal Products,LTD.