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「いただきます!」 「あ、七海ちょっと待って、食べちゃダメよ。おばあちゃん、このジャム、カビが生えてるわ!」 「あらあら、ごめんごめん。冷蔵庫にいれっぱなしだったのね。捨てなくちゃと思っていたんだけど、ごめんね」 「やっぱり、ふだんからマメに片づけておかないとダメね。私もよく、ダメにしちゃったりするわ」 「こ、こっちのは、食べても大丈夫ですかね……」 「おやおや、脅かしちゃってごめんなさいね。こっちのジャムは新しいから大丈夫ですよ」 椎名さん一家は、広一パパと春菜ママ、小学校二年生の七海ちゃんの三人家族。土曜日にはいつも、ママの実家でお昼ごはんをいただきます。今日は、みんなで年末の大掃除なので、ランチもサンドイッチやパンで簡単にすますところなんですが……。 「うーん、やっぱりモノには、賞味期限があるもんだな」 「そうですよ、おじいちゃん。あの押し入れの奥のダンボール箱……」 「あのミカン箱ですか? まさか去年のミカンがはいってるとか言わないですよね」 「もう15年以上も前のものなんだよ」 「じゅ、15年? 恐ろしすぎる……」 「いや、大丈夫。入っているのは、ビデオテープだからな。しかし、ずいぶん長いこと、封印してあったから、なにが録画されているのか、ワタシもあんまり思い出せなくてね。捨てていいかどうか判断できないんだ。この際、この前のビデオみたいに、パソコンに取り込むかなぁ。この前使った『SmartHobby(スマートホビー)』ってソフトだっけ? あれでやれば、編集も簡単だったし」 「ええ〜? そりゃ、テープさえちゃんとしていてビデオデッキがあれば、パソコンに取り込むことはできると思いますが。ご存じなかったんですか? ビデオテープもカビるんですよ。先日、会社の倉庫から、やはり17年前のビデオテープが大量にでてきましたね。みんなで片づけたんですが、もうボロボロ」 「……ほんとかね」 「会社の重要な記録映像だったので、仕方なく専門家に修復にだしたんですが、そのとき、いろいろ教えてもらったんです。ビデオテープの真ん中に透明な窓がありますよね」 「うむ」 「あそこから見ると、テープが真っ白になってたり、モノによっては、紫とか赤とか青とか」 「きゃー、それってカビ?」 「怪談はやめてほしいわぁ」 「そうそう、オソロシイよね。そうなると、ウカツに再生すると、テープが切れちゃったり、デッキのヘッドがいかれて、再生できなくなったりするんだそうです。カセットテープも同じようなもので、しまってある環境によっては」 「やはりこのままでは劣化していくばかりか……」 「すいませんけどね、広一さん。食事が終わったら、どんなありさまか、ちょっと見てくれないかしら。おじいちゃんにまかせておくと、いったいいつ片づくかわからなくて……」 「ぼ、ぼくが見るんですか。カンベンしてくださいよー」 |
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