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「いただきまーす!」
「このおさかなはなぁに? 美味しいねぇ」 「それは、鰆(さわら)だよ。春が旬の魚でね、魚偏(へん)に春と書く。俳句でも春の季語にもなっとるくらいだ」 「季語ってなぁに?」 椎名さん一家は、広一パパと春菜ママ、小学校二年生の七海ちゃんの三人家族。土曜日にはいつも、ママの実家でお昼ごはんをいただきます。今日は、鰆の西京漬けにおひたし、煮物という旬の和食です。 「季語というのは、俳句にひとついれなくてはいけない、季節を表す言葉だよ。季語を集めたものは、歳時記というんだ」 「今日のおじいちゃんは、俳句の先生?」 「五月雨を集めて早し、最上川……って俳句だと、五月雨が季語だ」 「川っていえば、この間の大雨の時も、あそこの川が溢れそうになっていたわよね。あの川が氾濫すると、ウチとおじいちゃんのところの行き来にも差し障るわ。ねぇ、ここのエリアだと緊急避難場所って春山公園?」 「そうねぇ、たしか地震なんかの災害の時の避難場所は春山公園だったと思うけど、水がでたら、あそこにはいけないわね」 「七海の学校に提出する書類で、災害時に家族が集まる場所を書いて出さないといけないのがあるんだけど、なにかあった時って、おじいちゃんたちは、どこに集合するの?」 「そういうのは、考えてなかったわね。おじいちゃんがでかけている時に、なにかあったら困るわね。やっぱり公園かしら……」 「公園で、待てど暮らせど、来ぬ人を……しまった、これは宵待草だ」 「待ちぼうけとか、すれちがいになると困るわよね。パパは会社に行ってて、七海は学校の時間だと、ウチはみんなバラバラだし」 「電車やバスが止まってしまうこともあるでしょうし」 「そうそう、そうすると、歩いて帰ってきてもらわないといけないし。電話もかからなくなることがあるから、連絡のとりようもなくなると」 「たしか、災害時の電話連絡に使える『伝言ダイヤル』っていうサービスがありましたね。171番だったかな。携帯電話にもそういうサービスがあったと思いますよ」 「さすがパパ。よく知ってるのね」 「それに、ちょっと前に『災害時帰宅支援マップ』っていうのが、発売されてたよ。東京都って、都内の幹線道路16路線を”帰宅支援対象道路”っていうのに指定しているんですよ。交通がダメになった時に、歩いて帰れる道路をいくつか指定してあって、途中の学校なんかを”帰宅支援ステーション”として、水やトイレを使えるようにしたり、いろんな情報を提供する場所にしているらしいですよ」 「へぇ、そんなのがあるのね。それで、パパはその地図、買ったの?」 「いや、買ってないよ。だって、家までだったら、何度か歩いて帰っているし」 「えー、そんなことしたことあるの? どんな道を通るの?」 「えーっと、六本木通って、渋谷通って、246号線を通って……」 「おじいちゃん、地図ないの?」 「あー、ウチにある地図はちょっと古いんだが」 「えー、これ? ボロボロじゃない。しかも、出版が昭和58年よ。古すぎるわよ」 「ワタシは、困らん」 「表参道ヒルズはおろか、六本木ヒルズだってでてないし、大江戸線なんて、計画もないじゃないの」 「そしたら、新しい地図を見てみましょうか。ご近所の避難場所も確認しておくといいかもしれませんね」 「そうだな。いい機会だから、みんなが知ってる場所を、集合場所に決めておくと良さそうだな。よし、食事が終わったら、まず、地図を買いにでかけるか」 「まぁ、とりあえず、パソコンで見てみましょう。地図(マップ)サービスのサイト、けっこう便利ですよ」 |
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