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キュウリやシソ、ミョウガなどの夏野菜を浮かべた味噌ベースの冷たい汁を、熱々の麦飯にかけて食べる宮崎の夏の風物詩、冷や汁。最近は都会のレストランのメニューにも加わり、新宿にある県の物産センター「新宿みやざき館KONNE(こんね)」でも冷や汁の素が人気を呼んでいる。本場では、イリコにゴマ、味噌に野菜といった食材を使い、忙しい農家の即席スタミナ料理として親しまれてきた。夏野菜が旬を迎える今、おふくろの味を求めて西都市と佐土原町の家庭を訪ねた。 |
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10人分の材料。左上はゴマ80グラム、2段目左からイリコ300グラム、味噌300グラム、ピーナッツ80グラム、1段目左からネギ、キュウリ、タマネギ、シソは好みで、豆腐は半丁。米と麦は7対3の割合で炊く |
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「冷や汁は元々農民食、陣中食と言われ、農家が朝の忙しい合間をぬって、井戸水で味噌を溶かした汁に、庭先の夏野菜を刻んでいれ、麦飯にかけてサッと食べ、野良仕事に出たのではないかと思います。しかし第二次大戦後、各家庭で工夫し、手間のかかる料理に変化してきたのではないでしょうか」と、宮崎県西都市の冷や汁保存会会長、森貞子(ていこ)さんは語る。
森さんたちの冷や汁も手間のかかるもので、作り方はまず、頭と内臓をとったイリコとゴマ、ピーナッツをすりばちですり、細かくなったところで、合わせ味噌を加えて混ぜる。 |
ペースト状になった味噌を、すりばちに5ミリくらいの厚さにのばし、それをすりばちごとひっくり返してコンロの直火で焼く。焼き味噌の香ばしい香りが台所に立ち上り、茶色に焦げ目がつくまで焼いたら、湯のみ1杯分の熱湯を注ぎ、すりばちでさらによく混ぜる。ここでイリコのだしがでるのでしっかり混ぜるのがポイント。次に手でつぶした豆腐を入れて混ぜ、味をみながらひたひたになるまでさまし湯をいれていく。最後にキュウリ、シソ、タマネギなどの薬味を入れたらできあがり。汁は冷蔵庫でよく冷やしたものを使うが、真夏はさらにこれに氷を浮かべて、麦3対米7の熱々の麦飯にかけて食べる。 |
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見た目は単なるぶっかけ飯だが、食べてみるとイリコの香りに焼き味噌の香ばしさ、ゴマとピーナッツのコク、パリパリとしたキュウリと爽やかなシソの風味が絶妙のバランスで、どんどん箸が進んでしまう。
冷や汁のベースとなる焼き味噌は、冷凍しておけば1年はもつので、西都市赤十字奉仕団の防災食ともなっている。 西都市の隣町、佐土原町の福田精子さん宅では、ショウガ農家ということもあって、薬味にショウガが加わる。「ショウガは新陳代謝を活発にしますし、冷や汁は暑い夏でもさらさらと食べられるので、我が家は夏バテ知らずです」と福田さん。 |
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(左)昼食として冷や汁を食べることが多い福田さんご一家。新ショウガの天ぷらやカボチャの煮付けなど自家栽培の野菜を使った料理が並ぶ
(右上)福田さんの新ショウガのハウスは160棟、約4ヘクタールある。新ショウガのほかに、ピーマンやテッポウユリの栽培もしている
(右下)福田さん宅の冷や汁には、新陳代謝を活発にするショウガが入る。イリコはすらず、ダシをとる |
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福田さんの冷や汁は、イリコはすらず、頭と内臓をつけたままダシをとり、すりばちですったゴマとオーブンで焼いた味噌を混ぜ合わせたものに、イリコダシを加えてのばしていく。豆腐はすりばちですらず、手でザクザクとつぶしながらいれるので、形が残っていて食べごたえがあった。
宮崎の家庭では、基本的にイリコを使うが、レストランなどではアジやカマスなどの魚を焼いてほぐしたものを使ったりもする。薬味はキュウリやシソのほか、焼きナスやミョウガ、大根の千切りなど各家庭で様々というのも冷や汁の魅力の一つだ。
(文/中 文子 写真/南 雄二) |
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