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スローフード「ふるさと食風土記」
 
第7回 きりたんぽ鍋 秋田県鹿角市   今、まさに味覚の秋。あきたこまちの新米に、程よく脂がのり始めた比内(ひない)地鶏とセリ、そして旬のキノコがそろえば、秋田名物きりたんぽ鍋に如くものはない。その発祥の地といわれる鹿角市を訪れ、地元の味とその歴史を探ってみた。
 
山子の保存食たんぽから郷土料理きりたんぽ鍋へ
ゴボウ、糸コンニャク、地鶏の肉を入れてしばらく煮る。この後こんがり焼いたたんぽを手でちぎって入れる
ゴボウ、糸コンニャク、地鶏の肉を入れてしばらく煮る。この後こんがり焼いたたんぽを手でちぎって入れる
 
 秋田を代表する郷土料理きりたんぽ鍋の発祥の地という鹿角市を訪れた。古民家の囲炉裏を使い、地元のきりたんぽ好きが見守る中で、割烹店を営む加藤照子さんに技を披露してもらった。
 その加藤さんが、「11月ともなれば、何かさ、かつけで(理由つけて)たんぽ会やるべしってしゃべったもんだんす」というから、やはりきりたんぽ鍋を食べるのにこの時期が一番であることは間違いない。
 ともあれまずは下準備にとりかかる。実は、味の決め手になる比内地鶏の濃厚なダシをとるのには、アクをとりながらガラをじっくり5〜6時間かけて煮なければならない。そのためこの日は、あらかじめ加藤さんに店でダシをとってきてもらった。そのダシを鉄鍋に移し調理開始。酒と塩、醤油で味付けしたダシを煮立たせ、ゴボウ、糸コンニャク、比内地鶏の肉を入れる。
 比内地鶏は、天然記念物の比内鶏のオスと他種のメスをかけ合わせた一代雑種で、きりたんぽ鍋には欠かせない。ちなみに、市内の養鶏場「秋田比内や」では、鶏を鶏舎に閉じ込めずに、広大なスペースで自由に遊ばせて育てているという。「よ?ぐ運動させてるっすから、身の締まり具合がいいんだ」とは、農場長・柳沢秀雄さんの弁。
 
「たんぽ」
 次はいよいよたんぽの登場だ。炊きたての米をすりばちでつき、棒状にして串にさしたものである。囲炉裏を囲んでいた同市文化財保護審議会委員の奈良東一郎さんによると、「たんぽは、山子だぢの食いもんだったのしゃ」。山子と呼ばれた鹿角のきこりたちが、串に握りつけたたんぽに味噌を付けて火に焙って食べていた。これを、山で捕ったキジやウサギと一緒に味噌仕立ての鍋に入れるようになったのが始まり。明治になり、醤油が一般化すると、家庭で飼っていた地鶏を入れた今の醤油味のきりたんぽ鍋が普及したのだそうだ。
 囲炉裏端で串を回転させ、たんぽに焦げ目をつけていた加藤さんがふとつぶやいた。「昔は、わらし(子供)さ、おもしぇっこしょわせで(おだてて)焼がせだもんだ」。よく焼いたたんぽをちぎって入れていく。切って入れるからきりたんぽなのである。
昔は新米が口に入る時期が今より1か月以上遅かったとか。そのため、きりたんぽ鍋を食べたのも11月に入ってから。暮から正月にかけてが最もよく食べられたという 四角いたんぽ串にしっかりと半搗き米を握り付けていく
みんなでワイワイ楽しく食べるとおいしさも倍増
(左)昔は新米が口に入る時期が今より1か月以上遅かったとか。そのため、きりたんぽ鍋を食べたのも11月に入ってから。暮から正月にかけてが最もよく食べられたという
(右上)四角いたんぽ串にしっかりと半搗き米を握り付けていく
(右下)みんなでワイワイ楽しく食べるとおいしさも倍増
 
皆してワイワイ……というのが、楽しいのしゃ
皆してワイワイ……というのが、楽しいのしゃ
 さらに煮て、ネギとセリを入れたら出来上がり。たんぽは、粘り気のあるあきたこまちを使い、しっかり焼きめを付ければ、煮くずれしないという。たっぷりダシを染み込ませた方が、「うめいのしゃ」。
 できたての大鍋を囲む。濃厚なダシのしみ込んだたんぽと比内地鶏のふくよかな味、シャキシャキしたセリの食感が織り成す味のハーモニーが格別だ。「皆してワイワイ……というのが、楽しいのしゃ」(奈良さん)。まさしく同感!

(文・写真/藤井勝彦)
 
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