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第9回 阿波和三盆糖 徳島県 上板町   阿讃(あさん)山地の斜面に育つサトウキビを原料とする和三盆糖は、高級和菓子の材料として全国から注文を集めている。和三盆糖作りは、12月から2月が最盛期。徳島県で唯一、手作業で和三盆糖を作り続ける岡田製糖所を訪ねてみた。立ち上る湯気に包まれた釜場、薄暗い小屋でもくもくと続けられる「研ぎ」の作業。すべてが、職人の経験と感だけが頼りの、昔ながらの手作業だ。
 
サトウキビの香りが漂う甘みは手作りにこだわる職人技の賜物
原料となるサトウキビ。竹糖と呼ばれる品種で、沖縄などで見かけるものより細く、背丈は2mほど。糖度が上がる12月ごろから収穫される  
 
原料となるサトウキビ。竹糖と呼ばれる品種で、沖縄などで見かけるものより細く、背丈は2mほど。糖度が上がる12月ごろから収穫される
 「まずこれを食べてみて下さい」。製糖所を案内して下さった岡田製糖所の岡田和廣さんが差し出したのは、霰糖(あられとう)と呼ばれる和三盆糖の固まり。小指の先ほどの霰糖は、ひと口かんだとたん、淡雪のようにさらりと溶けて、口中に品のある甘みが広がる。「それがサトウキビの味なんです」と岡田さん。一般の精製糖にはないサトウキビの甘みを引き継ぐ砂糖。それが和三盆糖なのだ。
 和三盆糖の原料となるサトウキビがこの地に伝わったのは、今から約230年前のこと。丸山徳弥なる村人が、旅の修行僧の言葉をヒントに現在の宮崎県、日向へ赴き、サトウキビの苗と栽培法を習得して帰ったことがサトウキビ栽培の始まりという。サトウキビは竹糖(ちくとう)と呼ばれる品種で、沖縄などで見かけるサトウキビより細く背丈も低い。この竹糖でないと、和三盆糖特有の甘みや食感は出せないという。かつては多くの農家が農閑期にサトウキビを絞って煮詰め、砂糖を作っていたというが、昔ながらの手作業で和三盆糖を作っているのは、徳島県では岡田製糖所だけとなった。

 
「必要なのは技と、経験に裏打ちされた勘だけ」
  和三盆糖作りの工程は、サトウキビの汁を搾る「締(しめ)場」、搾った汁からアクを抜き、煮詰めて冷まして白下(しろした)糖を作る「釜場」、白下糖から糖蜜を取り除いて和三盆糖に仕上げる「研ぎ」の3つに大きく分かれる。締場だけは機械を使っているが、あとはすべて手作業。必要なのは職人さんの技と、経験に裏打ちされた勘だけだ。搾り汁を徐々に煮詰める釜場では、温度計も糖度計も使わない。竹棒をさして、汁のしたたり具合や色から上がり具合を判断し、精度や粒子が均一の白下糖を作る。
 こうしてできた白下糖は、まだ糖蜜を多く含んでいるため茶色く、なめるとザラリとした感触。この糖蜜を取り除いて白くし、粒子を細かくする作業が「研ぎ」で、製品のできを左右する重要な工程である。
左:昭和20年から「研ぎ」ひと筋の坂東千代吉さん。指先の感覚を頼りに、気温や湿度の違いによって研ぎ加減を調整する 右:搾られたばかりのサトウキビの汁。サトウキビを搾る職人は「締め子」と呼ばれ、冬の時期だけ住み込みで働く
左:昭和20年から「研ぎ」ひと筋の坂東千代吉さん。指先の感覚を頼りに、気温や湿度の違いによって研ぎ加減を調整する
右:搾られたばかりのサトウキビの汁。サトウキビを搾る職人は「締め子」と呼ばれ、冬の時期だけ住み込みで働く
 
冷し釜で撹拌しながら自然冷却した汁は、さらに冷却するために素焼きのカメに移される
  カメで冷やした白下糖はやや固めの状態で、これを麻布で包み、天秤棒を使って重しをかける。丸一日おいてかなりの糖蜜が抜けてもまだやや茶色で、さらに糖蜜を抜くために、手に水をつけて練る。この「研ぎ」は、米を研ぐように練ることに由来しているともいう。
 水分を含んだ白下糖を再び麻布に包み、重しをかける。こうすることで、水分と糖蜜が一緒に搾られさらに白くなる。昔はこの作業をお盆の上で三回繰り返したので、三盆糖の名が付いたと言われるが、今では五回ほど繰り返す。研ぎを終えた和三盆糖は、まだ湿り気が残るそぼろ状の固まりで、これをふるいにかけて粉状にし、陰干しで乾燥させて完成。

 できあがった和三盆糖は、高級和菓子の材料として全国へ発送されるが、最近は一般家庭からの注文も増えている。健康自然食品、低カロリー食品として注目され、コーヒーや紅茶に、料理にと、幅広い目的で使われている。

(文・写真/渡辺貴由 協力/日本観光協会)
さまざまな型物(詰め合わせ500円〜、地方発送も可。)つなぎも色素も一切使っていないので、和三盆糖そのものの味がする。
   
  さまざまな型物(詰め合わせ500円〜、地方発送も可。)つなぎも色素も一切使っていないので、和三盆糖そのものの味がする。
 
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