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第4回 本郷 東京都文京区   新五千円札の顔になった樋口一葉は、東京の本郷で育ち、この地で24年の短い生涯を終えた。今も文学史にその名を刻む薄幸の女流作家の面影を求め、路地から路地へと歩いてみた。
 
「古い町並みを残す本郷の町」
 地下鉄の春日(かすが)駅で降り、駅上にそびえる文京区のシビックセンターへエレベーターで上がる。25階が展望ラウンジ(無料/年末年始休/9時〜20時30分)として開放されているのだ。
 古い町並みを残す本郷の町は、台地と坂が複雑に入り組み路地が迷路のようになっている。高所からまず町を俯瞰(ふかん)しておこうという算段だ。結論を先に言えば、これが正解だった。方角、地勢を頭に入れ、地上に降りて歩き出した。
 春日通りを東へ10分ほど進むと文京ふるさと歴史館(100円/月曜休/10時〜17時)がある。ここには、本郷の歴史やゆかりの人物などが分かりやすく展示されている。詳細な地図(100円)もあるので、ぜひ訪れよう。
「町歩きの楽しみは、迷うこと」
 館長の宮前さんに「本郷の町歩きの楽しみは、迷うことです。楽しんで来て下さい」と見送られ、炭団(たどん)坂を下りる。実際に歩いてみると本当に坂が多い。東京にある433の坂のうち、113の坂がここ文京区に集中しているという。
 炭団坂の横には坪内逍遥旧居跡、坂を下りてすぐ右には宮沢賢治の旧居跡、文学史上のビックネームが次々と出てくる。坂と文学と、そしてもちろん大学の町だと、今さらながら感じた。
 しかし、目的の樋口一葉の旧居跡が分からない。軒先で包丁を研いでいたおじいさんに聞くと、「最近見に来る人が増えたけど、大方迷うね。そこの路地だよ」と包丁の刃先を向けて教えてくれた。
 
「一葉の旧居跡の路地へ入り当時の生活に思いを馳せる」
 住宅に挟まれた細い路地を入ると、静謐(せいひつ)な空間に出合った。目当ての場所だった。そこだけ時が止まっているかのようだ。一葉が使ったという井戸が残り、正面の苔むした小さな階段の両脇には、木造の家が立つ。明治23年、(1890)、一葉18歳の当時、約3年にわたり暮らした家は今はない。旧居跡を示す看板があるのみだが、往時の光景がモノクロ写真のように浮かんでくる気がした。
  一葉の旧居跡付近
 もともとは、中流の暮らしぶりであったという一葉一家も、父親と兄が相次いで他界し、以後の生活は貧窮を極めた。一葉は針仕事などで生計を立てながらも、ここから私塾「萩の舎」へ通っていた。姉弟子の三宅花圃(かほ)が小説を書き、原稿料33円20銭を手にしたことに刺激を受け、お金を稼ぐために小説家になることを決めたと伝わっている。いわば一葉文学の発祥の地だ。
 旧居跡から2分ほど歩くと、菊坂の右手に蔵と木造二階建ての古い建物がある。万延元年(1860)創業の伊勢屋質店だ。現在は廃業しており非公開だが、蔵の内部などは往時のままだという。一葉はお金に困ると、頻繁に着物などを持ち込んだ。家からは目と鼻の先とはいえ、どんな気持ちで通ったのだろうか。
 一葉に心を残しながら菊坂を下り、胸突坂を上って本郷5丁目を散策する。本当にこの界隈は興味の的に事欠かない。今度は石川啄木の下宿跡があった。出会った初老の男性は「有名な観光地と違って、生活の匂いの中に自然に古いものが残っていますね」と本郷の印象を語る。広島在住だが、退職後、全国の古い町並みを歩いているという。
 
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