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「信濃が溶け出すのを見過ごすわけにはいかない」。長野県山口村と隣接する岐阜県中津川市の越県合併に際し、田中康夫県知事はそう反対したという。その理由のひとつが馬籠にある。
旧山口村に属した馬籠は中山道木曽路の有名な宿場町であり、信州の風土を描いた文豪、島崎藤村(とうそん)(1872〜1943年)の故郷でもある。端から端まで歩いて15分もかからないが、信州信濃が凝縮された場所ともいえるからだ。
名古屋駅から急行で約50分、中央線中津川駅で降り、バスで30分の馬籠バス停が散策の起点になる。バスを降りると、周囲は恵那(えな)山などに囲まれ木々の匂いが濃い。<木曽路はすべて山の中である>。藤村がここ馬籠を舞台に書いた名作『夜明け前』の冒頭の気分を肌で感じる瞬間だ。
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バス停からすぐ左に折れると、馬籠宿の町並みが始まる。この宿場には、海抜600メートルの尾根伝いに延びる中山道の両側に古い木造の家々が立ち並ぶ。家々の裏側は共に下り勾配になっており、下方へ向かって林や田畑が広がる。この独特の景観を、『夜明け前』ではこう記述している。
<美濃方面から十曲峠に添うて、曲りくねった山坂を攀じ登って来るものは、高い峠の上の位置にこの宿(しゅく)を見つける、街道の両側には一段ずつ石垣を築いてその上に民家を建てたようなところで…>。
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