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<「近江」というこのあわあわとした国名を口ずさむだけでもう、私には詩がはじまっているほど、この国が好きである>
作家、司馬遼太郎がそう惚れ込んだ近江は、湖畔の美しい風景とともに、天下に名を馳せた近江商人の故郷としても知られる。伊藤忠商事、丸紅、高島屋、大丸、西武グループ、日本生命、ヤンマーディーゼル、武田薬品、ふとんの西川。いずれも近江商人の流れをくみ、今に続く。
東海道線の近江八幡駅からバスで5分、小幡町資料館前で降り、近江八幡めぐりをスタートした。ここは、近江商人のなかでも最も歴史が古い八幡商人の町である。
バス停近くの新町通りを曲がると、八幡商人の町並みが始まる。木造平屋、低い軒と格子戸が特徴の江戸末期の商家が連なり、敷地からは樹齢数百年の松が伸びる。道端でスケッチをしていた初老の男性に声を掛けた。「大阪から電車で1時間やし、よう来るで。町に余裕があるというか、ごみごみしてへんから絵にしやすいわ」。 |
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近江商人は行商が基本だった。江戸期に天秤(てんびん)棒を担いで全国を回り、産地で仕入れた特産品を各地で売る「産物廻し」で利益を得た。その後、江戸、大坂、京都などに出店を構えて成功する。それを支えたのが「三方(さんぽう)よし」の精神だった。「売り手よし、買い手よし、世間よし」。自分の利益だけでなく、相手に喜ばれ、社会や地域に貢献してこそ商売だという意味だ。企業倫理が問われている今、その精神が注目されているというのもうなずける。
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