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近江の食を味見し、水郷めぐりの乗船場に向かった。北に歩いて20分ほどだ。貸し切りが主だが、夏季は毎日、10時と15時に乗合舟(2100円)が出ている。
日本有数の水郷地帯を約1時間かけて小さな手こぎ舟は進む。船頭の坪谷日出夫さんは「昭和30年代までは、舟しか足が無かった。この辺の人はみな舟で田んぼに行ったんや」と話す。今でも60代以上の人は男女に関わらず櫓(ろ)を扱えるという。
舟は両脇に葦(よし)が迫る細い水路を進み、途中2、3か所ほど葦原に縁取られた広い池のような場所を通る。櫓のきしむ音にまじり、カイツブリの甲高い声が聞こえる。葦のすれる音とともに風が近づき、頬を撫でていく。当日の気温は30度を越えていたが、風はひんやりと心地よい。奈良から吟行に訪れたという70代の夫婦は「櫓のきしむ音を久しぶりに聞いたわ。景色もええし風も気持ちええし、今日は俳句はやめや」と笑いながらノートと鉛筆をしまった。葦の枯れる秋にも来る予定だという。
舟を降り町へ戻った。平日の夕方だというのに観光客の姿は絶えない。町の中心にある明治10年に建てられた学校を利用した案内所で、観光物産協会の田中宏樹さんに話を聞いた。それまで平均160万人ほどだった観光客は、昨年一気に220万人にまで増え、今年もそれに迫る勢いだという。理由を尋ねると「私たちにも分からないんです。ただ、バブルの時にも踊らされず、この静かな風情を残したことが今になって人をひきつけ、一周遅れで時代に追いついたのかもしれません」。
町を歩くと「漁師からフナ買うて、フナ寿司は毎年作るよ」というような話をよく聞いた。周囲の湖、田、水郷などの自然と、漁や農などの生業、暮らしとのつながりを肌で感じる。これがわが国の原風景ではなかったろうか。季節ごとに何度も訪れる人が多いのも分かる気がする。
「商い」の町が今は、「飽きない」町になったと、我ながら下手な洒落(しゃれ)に苦笑いしながら町並みを後にした。
(文/熊崎俊介)
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【交通】東海道線近江八幡駅からバス5分、小幡町資料館前下車/名神高速八日市ICから国道421号線経由約30分。近江兄弟社学園前に無料市営駐車場あり
【備考】ボランティアガイドあり(3人以上で5日前から要予約。交通費1000円)。問い合わせは、近江八幡観光物産協会へ
【宿泊】市内にホテルなど7軒
【問い合わせ】近江八幡観光物産協会 TEL:0748-32-7003 |
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(2005年旅行読売9月号より) |
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