この時点で、まだ、生産を委託するベンダーは決定していなかった。実は、その直前に、商品戦略グループから、とんでもない指示がおりてきたのだ。
「製品コンセプトを変更、拡張せよ。もっとモバイルを強く意識しなさい。」 LaVie Mなどのモバイル機の担っていた役割をも吸収したコンセプト拡大を強いられたのだ。
これで作業はやり直しだ。保谷と丸川は、突然のコンセプト変更に、 ちょっとしたいらだちを感じていた。
保谷 |
「NECとしてどういう方向性で売っていくかという戦略の話があって、モバイルをどうするのかというところで、既存機種を含め、複数の製品を集約しなければならなくなったんです。台湾に持っていったモックアップのデザインだと、モバイルには弱いんじゃないかということになって、モバイルとしての実力をつけなければならなくなりました。
モバイルとして許される重さまで軽量化を検討し、さらに、もっと薄く見えるようなデザインにしろということになったんです。商品戦略の変更によって、コンセプトはそのままに、世界観を広げろという話になったんですね。だから、機能を削ったりせずに、狙っていた使い方を踏襲し、どこまで軽くできるかにチャレンジしなければなりません」 |
勝沼 |
「デザインは、ガワだけをやっているわけじゃないんです。商品のコンセプトを表現するのがデザインの役割ですから、コンセプトが少し変わったら、それに対するデザインの修正という作業が必要になります。特に今回は、全体のシェイプを変更しなければならなかったのがインパクト的に大きかったですね。いずれにしても、全部やり直しです。初期型と今のモックアップを比べたときに、残っている部分はほとんどありません。ただ、中身の構造自体は変わっていません。そのレイアウトで、どうやって薄く軽く見せるかに苦労しました。使っている人にとって綺麗にみえてほしいというところでは同じですから」 |
いったん委託先のベンダーは内々にほぼ決まっていた。コストも算出されていた。そこまで詳細を詰めたあとの変更だ。つまり、プロジェクトは、いったん振り出しに戻り、そして、この二度目のモックアップレビューのプレゼン後、再度、各ベンダーに要件が提示され、委託先ベンダーが再決定されることになった。愚痴ばかりを言っているわけにはいかない。保谷と丸川は、再び、走り始めた。
丸川 |
「コンセプトが拡大され、見かけや軽さを重視しろということになりました。当然、中味を見直す必要が出てきました。そこで、メカ屋さんといっしょになって自社パソコンや他社機を徹底的にばらしまくってみたんです。すると、スプレー状のメッキでシールドしているなど、薄型軽量化のためにかなりコストをかけているんですね。こういうのを目の当たりにすると、ベンダーは十分に対策したというんですが、それが口だけのように聞こえるようになりました。何か特別なことをしなければ実現できるはずがないんです。そこで、軽量化に貢献できる要素を徹底的に探して、最終版の要件書に書き込みました。コスト順位が変わる可能性もあるので、その要件書を、もういちど各ベンダーに再検討させ、競争してもらいました」 |

さらにこの時点で、パールホワイトの新LaVie Nに新たな色が追加されることになった。女性ユーザをメインのターゲットにプランが進んでいたからこそのホワイトだったが、新たな戦略展開のために、男性も意識する必要が出てきたからだ。 その二番目の色に選ばれたのは、紺色だった。
保谷 |
「黒というセンもありだとは思ったのですが、あのときは、なぜか、いきなり、紺色のイメージが浮かんで、会議で、紺にしましょうって発言していました」 |
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