NECパソコンの歴史 前編 〜LaVie Z発売とパソコンの夜明け〜 ライター 山田 祥平
1981年 そのころ海外では
そして、1981年。海の向こうでは巨人IBMが「PC」という製品を世に出します。いわゆるIBM PCの誕生です。マイクロコンピュータとしてインテルの16ビットCPU8088を搭載するこの製品は、世界に衝撃的な驚愕を与えました。大型コンピュータの世界のトップに君臨していた巨人IBMが、パーソナルコンピュータの世界に参入してきたことは、きわめてショッキングな出来事だったのです。
IBM PCは衝撃をもたらしただけではなく、爆発的な売れ行きを示しました。NECはこの年、大ヒットした「PC-8001」の下位機として「PC-6001」を、上位機として「PC-8801」を同日発表し、パーソナルコンピュータのラインアップを拡充しています。IBM PCの衝撃は日本の市場にはまだ届くことはなく、これらのパソコンは仕事と遊びを強力にサポートする頼もしい存在として迎え入れられました。
僕が中学生のころは、パソコンが出始めの頃で、ゲームをするおもちゃとしては大変高価なものでした。そこで、数少ないパソコン専門店に通っては、展示されているパソコンを触らせてもらって、パソコン雑誌に掲載されているプログラムを何時間も掛けて入力して、遊んでいました。
当時のパソコンは、カセットテープにプログラムを格納する方式でした。なので、テープレコーダとカセットを自転車に積んで、パソコンショップに毎日通っていました。
お店ごとにすごくキー入力が速い達人的な子供たちがいたので、有名なお店には気後れしてほとんど行けず、主に地元の事務機系NECショップに行ってました。
都立高校に合格した時、「私立に行かなくて費用が少ないんだから、パソコンを買って。」とねだって、入学祝に「PC-6001」を買ってもらいました。
「PC-8001」と比べるとおもちゃっぽくて、愛称も「パピコン」。それでも、お店に行かなくてもプログラムが入力できるので、とてもうれしかったです。
自宅にパソコンが来てからは、プログラムを作ったりFM音源ボードを自作したり、少し本を読むと、いろいろなことができるようになったので、とにかく熱中しました。
今思えば、随分お店には迷惑を掛けたと思います。ただ、お店は「未来の入り口」な感じがしていたし、パソコンが家に来た時は、「自分と未来がつながった」感じがしたものです。
当時、左手にプログラムが掲載されている雑誌を持ち、右手でキーを叩いていました。
30年以上たった今でも、キー入力は右手で入力するキーの範囲が広いです。
1982年 国民機「PC-9801」
結果としてNECは世界標準の道を突き進むIBM PCとは別の道を選びました。その象徴が1982年に発売された「PC-9801」でした。類似性はきわめて高かったものの、日本においては日本語をきちんと高速に処理できなければならないという特異性を背負っていたからこその独自性で日本市場に最適化されていました。
マイクロコンピュータに8086を採用、128KBという広大なメインメモリを標準で搭載した本格的16ビットパソコンです。単位を間違えているわけではありません。MBでもGBでもなくKBです。原稿用紙約160枚分の情報量といえばわかりやすいでしょうか。グラフィックスは640×400ドットで色数は8色です。今のスマートフォンなら、480×800ドット以上、16,777,216色同時発色が普通です。でも、それが初代「キューハチ」が持っていた世界そのものでした。
そして、この製品は、のちに国民機と呼ばれるほどの大ベストセラーとなり、NECの国内における圧倒的シェア確立に貢献するのです。さらには、サードパーティと呼ばれるソフトウェア、ハードウェアビジネスのエコシステムを築き、日本のパソコン業界を牽引し、後世に語り継がれる存在となりました。まさに、日本のパソコン業界の旗手、NECの誕生です。全盛期には、日本国内のNECパソコンのシェアは90%を超えていたそうですから驚きです。
パーソナルコンピュータの誕生と巨人IBMのPC。IBM PCが目指した世界標準とは別の道を歩み、国民機の名をほしいままにした「PC-9800シリーズ」。IBMはのちに「ThinkPad」を世に出しますが、その「ThinkPad」はレノボが手に入れ、そしてそのレノボは今NECといっしょに未来を見つめています。
空調のきいた部屋に鎮座するコンピュータ様に計算をしていただいていた時代から、個人が自分の机の上で使えるパソコンの時代となり、そして、今、「LaVie Z」がもたらすめくるめくモバイルの世界が目の前にあります。業務用の冷蔵庫を家庭で使うような感覚でコンピュータを使ってきた時代からすれば、隔世の感がありますが、それでもたった30年とちょっと前の話です。
それぞれのパソコンにはそれぞれのドラマがあります。NECが過去に送り出してきた多種多様なパソコン。この連載では、その歴史をひもとき、パソコンの未来を展望します。次回は、98NOTEなど、NECのノートパソコンが生まれたころを振り返ってみることにしましょう。
ライター プロフィール
山田 祥平
1957年福井県生まれ。フリーランスライター、元成城大学講師。
インプレスPC Watch連載等幅広くパソコン関連記事を寄稿。単行本も多数。
NEC製品とは、初代PC-9800シリーズからの長いつきあい。