NECパソコンの歴史 後編 〜国民機から先進の未来へ〜 ライター 山田 祥平

1997年「98シリーズ」の再誕生「PC98-NX」

1997年にはマイクロソフトの「PC97ハードウェアデザインガイド」に準拠した「PC98-NXシリーズ」が発表され、NECはそちらに軸足を移します。過去との互換性を捨て、世界標準と戦う意思を、世界初の製品発表によって表明したのです。いわば、これが「98シリーズ」の再誕生といえるでしょう。
当時のキャッチフレーズは「新世界標準パソコン」でした。そのキャッチフレーズ通り、世界標準を先取りした「PC98-NX」は、「Mate」、「VALUESTAR」、「LaVie」などの過去のブランドを引き継ぎ、NECパソコンの主力ラインアップを構成するようになります。そして、そこで稼働することが前提とされたOSが当時最新のWindows 98だったというのはネーミング的にも皮肉な話です。
私の家にパソコンがやってきたのは高校生のときで、ちょうどインターネットが家庭に普及し始めた頃でした。父と二人で秋葉原へ買いに行ったのを覚えています。

パソコンをインターネットに接続し、初めて知らない人とチャットをしたときは本当にドキドキしました。それからWebサイトを見たり、掲示板に書き込んだりして、友達やいろいろな人と繋がれるようになりました。
その後、海外に単身赴任した父とも、メールでやりとりができるようになりました。今はSkypeなどの無料通話サービスもありますが、このときはメールだけでも、国際電話のように通話料や時差を気にせずに海外へ連絡ができることがありがたかったです。

私は絵を描くことが好きだったので、パソコンは絵を描くための道具にもなりました。
スキャナで取り込んだ自分の絵が初めてディスプレイに映し出された瞬間の嬉しさと、自分がテレビに映ったときのような気恥しさは、今でも忘れられません。「これに色をつけることも、写真と合成することも、自由自在にできるんだ!」と、自分もプロのイラストレーターになったような気持ちになりました。

そして社会人になり一人暮らしを始め、初めて自分のお金で買ったパソコンは、NECのVALUESTAR Nでした。赤くてかわいいボディで、テレビもブルーレイも見られる、そのときの最新機種です。早く使いたくて、配送をお願いせずに10kg以上ある箱をお店から家まで手で持って帰り、途中で少し後悔したりもしました。
それまでは家電にあまりお金をかけられていなかったので、パソコンといっしょに新しいテレビとブルーレイプレイヤーとレコーダーがいっぺんに家にやってきて、家で過ごす時間が楽しくなりました。
この子は今も私の相棒で、そろそろ買い替えたいなと思いつつも、なんとなく愛着があって手放せずにいます。

2000年「VALUESTAR」、「LaVie」へ

以降、2000年頃から「NX」の呼称はフェードアウトし、現行の「VALUESTAR」、「LaVie」に収束していきます。こうしてNECは、常に、未来を見つめ、日本人が使う日本人のためのパーソナルコンピュータとは何かを考えて製品を作り続けてきました。そして、今もその精神は変わってはいません。

パソコンは、低価格化の一途をたどり、薄型軽量化を果たしました。さらにはテレビ・ビデオ機能を持ったパソコンの普及も日本ならではのものであり、NECの模索のあとを如実に示しています。1999年に発売された「simplem」などは、現在の一体型パソコンの源流となる野心的製品であり、世の中の流れを大きくリードしたものでした。
NECパソコンの変革のきっかけを作ったといってもいいPC/AT互換機を世に出した米IBMは、2004年、そのパーソナルコンピュータ事業を中国レノボに売却しました。そして、そのレノボは7年後の2011年に、NECと組み、日本最大のパソコン事業グループ、NECレノボ・ジャパングループを発足させています。NECパーソナルコンピュータはレノボ・ジャパンとともに、そのグループの傘下企業となりました。2大勢力がひとつになり、これからどのようなイノベーションを起こそうとしているのか興味はつきません。

もちろん、そのエネルギーの源は、あの熱い時代にあったことはいうまでもなさそうです。
今、この原稿を書くにあたって、手元の作業用パソコンで過去に自分で書いた原稿を検索すると、「98シリーズ」激動の30年を思い出させるエポックメイキングな出来事が記されたものが次々に出てきます。本棚からも、節目になったOSやアプリのパッケージが顔をのぞかせます。捨てようと思っても捨てられなかった箱の数々が並んでいます。

前回と今回で、現在のNECパーソナルコンピュータ黎明期の歴史を「TK-80」から「98シリーズ」による黄金期、そして、苦しい時代と、そこからの脱却といった流れで紹介してきました。次回以降は、その短からぬ歴史の中で特筆すべき製品と、その背景となるエピソードを順次まとめていくことにしましょう。

ライター プロフィール

山田 祥平
1957年福井県生まれ。フリーランスライター、元成城大学講師。
インプレスPC Watch連載等幅広くパソコン関連記事を寄稿。単行本も多数。
NEC製品とは、初代PC-9800シリーズからの長いつきあい。
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