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「いっただきまーす! あれ、今日ってだれかの誕生日だっけ?」
「ほんと。松茸にステーキなんて、スゴイごちそうねぇ」
椎名さん一家は、広一パパと春菜ママ、小学校二年生の七海ちゃんの三人家族。土曜日にはいつも、ママの実家でお昼ごはんをいただきます。いつもおばあちゃんの美味しい手料理が楽しみですが、今日はいつにもまして、テーブルの上いっぱいにパーティーのようなごちそうが並んでいます。
「ささ、広一くんも遠慮しないで、どんどん食べてくれたまえ」
「パパ、スゴク美味しいよ!」
「ステーキは但馬牛。松茸は正真正銘の国産、ワタシの田舎の弟が送ってくれてね」
「……い、いただきます……」
「そう緊張するなよ。食べたね? どうだね、味は?」
「……素晴らしかったですが……」
「それはよかった。それでだね、いや、たいしたことじゃないんだが、広一くんに折入って頼みがあって」
「……やっぱり、そういうことでしたか。……今日はなんなんです?」
「うん。ほかでもない、キミのノートパソコンを、ひとつ気持ちよくワタシに貸してくれんかね」
「え? ここの家のパソコン、壊れちゃったんですか?」
「いやいやそうじゃないんだ。今度のお彼岸に、松茸を送ってくれた弟のところに泊まり掛けで行く予定なんだが、弟もパソコンを試してみたいと言うんだ。ワタシのデスクトップをかついでいくわけにもいかんだろう」
「パソコンていうのは、パーソナル・コンピューターってことで、個人が使うのが前提ですから、か、簡単に貸し借りっていわれても……」
「それがね、おじいちゃんたら、以前、広一さんが作った、七海ちゃんの成長記録のDVDを見せたくってしかたないんですよ」
「それでわざわざノートパソコンを持っていくんですか。うう、断れないですよね」
「ま、そういうことだ」
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「ごめんなさいね。おじいちゃん、パソコンが使えること自慢したかったのよ、きっと」
帰宅してすぐ、ママは申し訳なさそうに謝ります。
「まぁ、仕事に差し障るわけじゃないからいいんだけど……しかしなぁ、ぼくの個人データとかたくさんはいっているからなぁ。なんだかおじいちゃんに全部見られてしまうようで」
「データはCDとかに移しておけば?」
「もちろん、データのバックアップはとっておくけど、キミだって、このパソコンで会員制のサイトに登録してたり、クレジットカード使ったりしたことあるだろう?」
「もちろんだけど?」
「おじいちゃんに限って悪用とか流出なんてないだろうけど、そういう、人に知られたくないID情報や履歴がたくさんあるじゃないか。持ち歩くとなると、おじさんだけじゃなく、誰が触るかわからないし」
「おじいちゃん、うっかりしてるとこ、あるしねぇ」
「一番簡単なのは、おじいちゃん用のユーザーアカウントを作ることかな。いまはママとぼくのふたつだけど、おじいちゃんのも作って、そのアカウントで使ってもらうんだ」
「あ、トップ画面でユーザー名を入力しないと起動できない、あれね。あれでなにがかわるの?」
「ほら、キミとぼくと別の壁紙になっているだろ。それから、文字の大きさなんかもそれぞれで設定できるし、自分専用のフォルダがでてくるから、別のユーザーのデータは簡単には見れないんだ」
「まぁ、ぜんぜんちがうのね。アナタの画面も同じだとばっかり思ってたわ。個別にカギのかかる部屋のようなものだったのね」
「それじゃ、おじいちゃん用にユーザーアカウントを作っておくか。『コントロールパネル』の『ユーザー アカウント』っていうツールで作るんだよ」
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