一、食事と入浴
温熱の作用で、あつい湯や長い時間の入浴では皮膚が紅潮します。それは皮膚の血管が拡張するからです。皮膚の血管が拡張すると、反対に胃腸の血管は収縮します。すると胃液の分泌はとまり、胃腸の運動も緩慢になります。
したがって旅先の旅館などでは、食前の入浴はサッと済ませることが望まれます。ゆったり長湯をすると、せっかくのご馳走が食べられなくなります。しかし、冷たいビールを一杯飲むと食欲が出ます。
あまりの空腹時に長湯をすると気分が悪くなることや、脳貧血を起こすことがあるので避けます。宿に着いたら、部屋に置かれたお菓子とお茶で一服した後に、サッと食前の入浴をするのがよいでしょう。
食後の入浴は1時間を過ぎてから、ゆったりと寛ぐ入浴がよい。胃の中にまだ食物がある食事直後の入浴は避けます。その理由は前に述べたように、入浴で皮膚の血管が拡張すると、胃液の分泌が止まり胃腸の運動が緩慢になって、消化不良を起こすからです。
二、飲酒と入浴
温泉と酒は付きものです。また家庭でも晩酌の習慣のある人は、酒を飲んでから風呂に入る人も少なくありません。
飲酒をしたら、なるべく酔いがさめてから入浴して下さい。入浴前の飲酒の量は、日本酒で約一合、ビールで中びん一本でしょう。ほろ酔い程度です。泥酔したら入浴は禁じます。
飲酒の直後の入浴は、血液の循環が乱れて気分が悪くなりますし、脳貧血を起こして意識を失い、転倒や溺れる事故につながります。深酒では怪我や溺死も起こしかねません。
世間一般では、入浴すると酔いがさめるといいますが、これは間違いです。入浴で血液中のアルコール濃度は減りません。多量の水やお茶を飲むか、飲泉することにより尿からアルコールが排泄されます。酒を呑みすぎたときは、温泉入浴は翌日にするのが賢明です。
なるべく体温に近いぬるめの湯にゆったりつかると、利尿効果は高まります。
また高齢者の早朝の入浴は避けます。明け方は血液の濃度がたかまっていますから、血液の塊ができやすく、浴後に脳梗塞、心筋梗塞が起こりやすくなるからです。一人で入ることはせず必ず仲間と一緒に入浴します。
(2005年旅行読売6月号より) |