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約400m続く塩見縄手を抜け、城の東側の堀端を歩いて大手前へ。ここからは、城の周りの堀川をめぐる遊覧船(1200円)が運行されている。
大正4年にこの地を訪れた芥川龍之介が、『松江印象記』の中で「先 ( まず ) 自分の心を惹かれたものは、此市を縦横に貫いてゐる川の水と其川の上に架けられた多くの木造の橋とであった」と書いたように、松江は堀がめぐり、橋の多い町。1周約50分の間には、大小16もの橋をくぐってゆく。風に吹かれて水の上から眺める城下町はまた違った表情を見せ、堀端の老松や柳、船頭さんの歌声が風情を盛り立てる。定員
10 名ほどの船内は、地元の民謡が披露されるたびに拍手と歓声に包まれた。
乗り合わせたカップルに話を聞くと観光客ではなく、意外にも松江に住む 20代の夫婦。東京から引っ越して来たばかりで、やっと落ち着いたので市内観光をしているという。「僕は生まれも育ちも東京で、故郷と呼べる所がなかったんです。だから、この静かな城下町が子どもの故郷になることがうれしい。生まれる予定はまだないんだけどね」と頭をかく。
帰路、松江城を背に黄昏の町を歩いていると、静かで穏やかな気持ちになり、出会った人々の笑顔や城下の美しい佇まいが自然と目に浮かんでくる。
「疲れ切った都会の生活から来ると、大変心が安まった。虫と鳥と魚と水と草と空と、それから最後に人間との交渉ある暮らしだった」。大正3年の夏、松江に滞在した志賀直哉が書いた『濠端の住まひ』のそんな一節を、ふと思い出した。
(文/熊崎俊介) |
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【交通】山陰本線松江駅下車/山陰道松江西ランプから国道9号線経由約5分、松江城大手前にPあり(3時間以上800円)
【備考】ボランティアガイドあり(1週間前から要予約、無料)。問い合わせ先は、松江観光協会 TEL
0852-27-5843
【宿泊】市内に温泉宿12軒、松江駅周辺にビジネスホテル約10軒
【問い合わせ】松江市観光文化課 TEL 0852-55-5214 |
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(2004年旅行読売8月号より) |
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