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「弘法大師が今も生き続ける奥の院へ老杉の参道を歩く」
高齢化の時代、定年後の自分と人生を2度生きた男を重ねる
 
 町の中心から少し東にある遍照光院からさらに東へ10分ほど歩くと一の橋がある。長さ10メートルにも満たないこの橋を渡ると、霊場高野山の心臓部だ。世界が一変する。
 幅3メートルほどの石畳は緩やかにカーブを繰り返しながら、奥の院まで2キロ続く。樹齢500年から800年の二抱えも三抱えもあろうかという太い杉が立ち並び、その根元を無数の石塔や墓、地蔵が埋め尽くす。その数は25万〜40万基にもなるという。昼なお暗く、所々で太い幹の隙間から帯になって差し込む日差しが、苔むした墓の上をまだらに照らしている。線香の香りが漂うが、空気はひんやりと張り詰めたまま動かない。
 墓のひとつひとつを注意深く見ていて、とてつもない墓標があるのに気づいた。なんと、上杉謙信に武田信玄、織田信長に明智光秀の墓もここにある。
 平安の昔から大師の近くで眠りたいと、有名無名を問わず無数の人々がここを墳墓の地に選んできたという。敵も味方も身分の差もここにはない。 30分ほど歩き御廟(ごびょう)橋に着いた。この橋を渡ると聖地だ。弘法大師が今も生身のままでおわすと崇められる奥の院には、一心に経を唱える信者の姿があった。小さな廟を前に正座し、観光客には目もくれない。
 日が傾きさらに薄暗くなった参道を足早に引き返し、バスで高野山駅に戻る。ケーブルカーに乗り、急斜面をゆっくり下りていくと、今までの旅の終わりとは違う妙な気分になった。この不思議な感覚をどう表現したものかと考えていると、後ろの席から観光客の会話が聞こえてきた。
「下界に下りるっちゅう感じやなあ」。
 思わず大きくうなずいた。

(文/熊崎俊介)

地図
 
歩き旅メモ
【交通】南海高野線極楽橋駅からケーブルカー5分、高野山駅下車。さらにバス10分、千手院橋下車/阪和道美原北ICから国道310、370号線経由約2時間、金剛峰寺前に無料駐車場あり
【備考】ガイドあり(全域ガイド8000円、要予約)。問い合わせは、高野山ガイド協会TEL 0736-56-9800
【宿泊】宿坊53軒
【問い合わせ】高野山観光協会 TEL:0736-56-2616
 
(2005年旅行読売7月号より)
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